
就業規則の作成義務と36協定の届出を社労士が解説
スタッフが増えてきた。そう実感し始めたとき、手続きが何か必要なのではと気になりながら、つい後回しにしている経営者は少なくありません。
10人という数字は、法律上の義務が一変するラインです。
就業規則の作成と労働基準監督署への届出義務が生じるのも、ここが基準になっています。 後回しにしていると、労働トラブルや行政からの指摘という形で、ある日突然ツケが回ってきます。10人を超えた今が、会社の土台を整える節目です。
従業員10人で会社のルールが変わる理由
9人以下と10人以上では法律上の義務が違う
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業者に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けています。9人以下には、この義務はありません。
10人になった瞬間、就業規則がなければ違反状態になります。
罰則は30万円以下の罰金ですが、それより深刻なのは、社員とトラブルになったときに会社が手も足も出なくなる現実です。 ここでいう10人は、正社員だけの話ではありません。
パートやアルバイト、派遣社員も含めた常時使用する労働者の合計です。気づいたら超えていた、というケースが珍しくありません。
「うちはまだ大丈夫」が一番危ない理由
10人前後の会社では、経営者がまだ全員の顔と名前を把握できている時期です。みんな仲がいいから大丈夫、何かあれば話し合えばいい、そう感じているうちは問題が見えにくい。
ところが、キーマンが一人抜けたとき、あるいは社風に合わない社員が入ってきたとき、一気にトラブルが表面化します。
ルールが文書化されていないと、何が正しくて何が違反なのかの基準がなく、経営者は感情で対応しがちです。
それがさらに問題をこじらせる。仲が良い今のうちに整えておくことが、将来の会社と社員を守ります。
10人になった会社でよく起きるトラブル3例

解雇・退職をめぐるトラブル
一つ目は解雇・退職をめぐるトラブルです。
辞めてもらいたい社員がいるがどう伝えればいいかわからない、という相談は非常に多くあります。
就業規則に解雇事由や退職手続きの規定がなければ、不当解雇だと訴えられたとき、会社には反論の根拠がありません。
残業代の未払い請求
二つ目は残業代の未払い請求です。
みんな残業代を気にしていない、という雰囲気でも、退職後に請求が来ることがあります。時効は5年(当分の間は3年)。遡及して請求されるため、金額が膨らみやすい。就業規則と賃金規程で労働時間と割増賃金の計算ルールを明確にしておかないと、後になって痛い目を見ます。
無断欠勤や問題行動への対応
三つ目は無断欠勤や問題行動への対応です。
懲戒処分、つまり譴責・減給・出勤停止・降格降職・懲戒解雇は、就業規則に根拠規定がなければ行使できません。問題社員に何も手を打てないまま放置すると、周囲の社員の士気が落ちていきます。
やるべきこと1 就業規則の作成と労基署への届出

就業規則とは何か、なぜ必要なのか
就業規則は、労働基準法第89条に基づき、労働時間・休暇・賃金・服務規律・懲戒・退職と解雇といった事項を文書にまとめ、全社員に周知するものです。単なる書類ではなく、労使間のトラブルが起きたとき、会社の正式なルールとして法的効力を持ちます。
就業規則があれば、問題社員への懲戒処分、解雇の正当性の証明、残業や休日出勤のルール設定、試用期間・退職金・休職制度の整備ができます。逆にいえば、ない状態では、これらがすべて曖昧なまま運営することになります。
必ず記載しなければならない項目
労働基準法が定める絶対的記載事項として、始業・終業の時刻、休憩時間、休日と休暇、賃金の決定・計算・支払の方法と締切・支払時期、退職に関する事項(解雇事由を含む)は必ず盛り込まなければなりません。
一つでも欠けると不完全とみなされます。退職金や賞与、安全衛生などの規定を設けるなら、相対的記載事項として追加する必要があります。
届出先・届出方法・期限の基本
届出先は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。提出するのは就業規則2部と、労働者代表の署名・押印が入った意見書。常時10人以上になった時点で速やかに提出します。1部は受付印を押して返却されるので、社内で保管します。電子申請にも対応しています。
届出に必要な書類一覧
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 就業規則 | 本文2部(1部返却) |
| 賃金規程・育児介護休業規程など (必要に応じて) | 別規程として添付2部(1部返却) |
| 意見書 | 労働者代表の意見と署名・押印2部(1部返却) |
ひな形をそのまま使ってはいけない理由
ネットで無料のひな形を入手して届出の形式を整えることはできますが、そのまま使うのは危険です。
ひな形は一般的な会社を想定して作られているため、あなたの会社の業種・勤務形態・給与体系・雇用形態に合っていないことがほとんどです。
シフト制の飲食店が固定時間制を前提としたひな形を使えば、残業の計算が実態とずれます。
実態に合っていない就業規則は、トラブルが起きたときに会社の足を引っ張ります。
自社の実情に合わせてカスタマイズすることが前提です。
やるべきこと2 36協定の締結と届出
36協定がないと残業をさせられない
36協定とは、労働基準法第36条に基づく時間外・休日労働に関する協定届です。労働者代表と締結し、労働基準監督署に届け出なければ、法律上、残業させることができません。
ずっと残業させてきた、という会社もあるかもしれませんが、それは違法状態が続いていたということです。
残業代の未払い請求や労基署の調査が入ったとき、36協定がないことは会社にとって致命的に不利な状況をつくります。
締結手順と届出の流れ
まず時間外労働の上限時間数などを決定し、協定届を作成します。
次に労働者の過半数代表者を選出し、会社と労働者代表が署名・押印します。
そして、協定届を所轄の労働基準監督署に届け出ます。
36協定の有効期間は最長1年で、毎年更新する必要があるのですが、忘れている会社が非常に多いのが実態です。
過半数代表者の選び方
会社が指名するのではなく、労働者が自主的に選ぶ必要があります。
社長が誰かを指定する形は適切な選出とはいえず、協定の有効性に疑義が生じます。
投票・挙手・話し合いなど、民主的な方法で選んでください。
管理監督者は代表者になれないため、現場の一般社員から選出します。
時間外労働の上限ラインと特別条項
2019年の法改正で、時間外労働の上限が法定されました。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則(月) | 45時間以内(1年単位の変形労働時間制の場合42時間以内) |
| 原則(年) | 360時間以内(1年単位の変形労働時間制の場合320時間以内) |
| 特別条項あり(年) | 720時間以内 |
| 特別条項あり(月) | 2~6か月平均80時間以下 1か月100時間未満(休日労働含む) |
繁忙期に月45時間を超える業種では特別条項付きの36協定が必要ですが、それでも無制限には残業させられません。
届出なしで残業させていた場合のリスク
36協定なしで残業させていた場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。
元社員から残業代請求訴訟を起こされれば、残業を命じる根拠がない状態として、会社は極めて不利な立場に立たされます。
やるべきこと3 社会保険・雇用保険の加入漏れチェック
10人規模でよくある加入漏れのパターン
従業員が増えると、入退社の手続きが追いつかなくなる会社があります。
その中でも多いのが、社会保険・雇用保険の加入漏れです。
よくあるパターンが三つあります。
一つは、社会保険の加入要件を満たしているパートを、パートだから関係ないと思い込んでいるケース。
二つ目は、試用期間中は加入しなくていいという誤解で入社日から加入させてないケースです。入社日から加入が原則です。三つ目は、退職した社員の社会保険喪失届を出し忘れ、保険料が二重にかかっているケースです。
パート・アルバイトの社会保険加入は何人から
2024年10月以降、従業員51人以上の企業では短時間労働者への社会保険適用が拡大されています。
50人以下は現時点で対象外ですが、今後さらに拡大される見通しです。
50人以下でも、週30時間以上働くパート・アルバイトには社会保険の加入義務があります。
加入漏れが発覚した場合の追徴リスク
加入漏れが発覚すると、最大2年遡って保険料を追徴されます。
会社負担分に加え、本来天引きすべきだった労働者負担分も会社が立て替えるケースがほとんどです。
複数人の漏れが数年続けば、追徴額が数百万円に達することがあります。
自分でやるか、社労士に頼むか
自分で対応できるケースとできないケース
就業規則の作成や36協定の届出は、時間をかければ経営者自身でもできます。
書き方の説明通りにひな形を整えて提出する、36協定の用紙に記入して労基署に持っていく、社会保険の加入手続きを年金事務所で行う、この程度であれば自力で動けます。
一方、自社の業種・勤務形態に合わせた就業規則を一から作る、変形労働時間制や裁量労働制を導入する、問題社員への懲戒や解雇を検討している、残業代トラブルや労基署の調査対応が必要になった、給与計算と入退社手続きを毎月こなす時間がない、こうなってくると自力には限界があります。
経営者の時間は経営に使うものです。労務手続きに追われて本業がおろそかになるのは、本末転倒です。
社労士に頼んだ場合の費用イメージ
社労士への顧問料は、従業員10〜20人規模であれば月額2〜4万円程度が相場です。
労働・社会保険の手続き代行、人事労務に関する相談対応、法改正情報の提供とアドバイスが含まれることが多く、給与計算を加えると別途月額1〜3万円前後かかります。

スポット依頼と顧問契約の違い
社労士への依頼にはスポット依頼と顧問契約の二種類があります。
スポット依頼は就業規則作成や36協定の届出だけといった単発の依頼で、顧問契約は毎月一定額を支払い継続的に相談・手続きを任せる関係です。
顧問契約の実質的な強みは、何か起きる前に動けることです。
スポット依頼は問題が起きてから依頼するため、どうしても後手になります。顧問であれば、こういう状況になりそうだがどう対処すればいいか、という段階で相談できます。
解雇トラブルは、解雇を告げた後からルールを作っても間に合いません。
残業代請求は、請求が届いてから就業規則を整えても、遡及分は免れません。ルールは問題が起きていない平時に作るものです。トラブルが発生してからでは、社労士も弁護士も動ける範囲に限界があります。
岐阜・名古屋で就業規則・36協定の対応をお考えの方へ
須田社会保険労務士事務所が選ばれる理由
須田社会保険労務士事務所は、2003年の開業以来20年以上、岐阜・名古屋を中心とした中小企業の労務をサポートしてきました。
多くの社労士事務所が指導と是正の指示を中心に動く中で、当事務所が重きを置いているのは経営者目線でのアドバイスです。
法律をわかりやすく伝えるのは前提として、この会社の実情でどう動くのが現実的かという視点を常に持ちながら、経営者の判断を支えます。
上から是正を命じるのではなく、一緒に考えて一緒に動く。岐阜・愛知県内を中心に全国対応も可能です。
初回相談の流れ
相談の内容が整理できていなくても構いません。現状の従業員数や気になっていることをお聞きした上で、何が必要かをご説明します。その後、対応内容と費用感をお伝えします。
TEL 058-227-5564(平日9:00〜17:00)
メールでのお問い合わせは24時間受け付けています。
info@junsuda.com
まとめ
10人を超えたタイミングでやるべきことは三つです。
就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る。ひな形をそのまま使わず、自社の業種や勤務形態に合わせて作ることが前提になります。
36協定を締結して届け出る。過半数代表者の選出から毎年の更新まで、手順を正しく踏む必要があります。
社会保険・雇用保険の加入状況を確認する。パートやアルバイトも含め、全員の加入要件を定期的にチェックする仕組みを持っておくことです。
10人を超えた今が、労務の仕組みを整える現実的な起点になります。



