J.S.

労災保険は誰のためのものか?

先日、ある会社にお勤めの知り合いの方から、「社長から『あなたたちのために労災保険を払ってあげてる』と言われたけど、その言葉がなんとなく腑に落ちない」との話をお聞きしました。

この方はお勤めしつつフリーランスで働いていて、労災保険などの社会保障制度について興味をお持ちでしたので、ピン!と来たんですね。

労働保険料は労災保険料と雇用保険料で構成されていて、雇用保険はお勤めの方(被保険者)の負担分がありますが、労災保険に関しては保険料のすべてを会社が負担しています。そこで経営者は「雇っているあなたたちのために払ってあげてるんだ」という思いを抱くのかもしれません。

しかし、従業員が業務上で災害にあったときは、病院の治療費や休業に対する補償など、会社はさまざまな災害補償をしなければならないと労働基準法に定められているのです。

つまり、仕事で従業員がケガをしたら、お金を払わなければならないのは従業員ではなく会社です。労災保険がなかったら健康保険が適用されない高額な治療費や働けない期間の給料などを支払わなければならず、財政的な問題で経営が困難になるかもしれないリスクがあるのです。このリスクを回避してくれるのが労災保険制度なので、労災保険は労働者を守る保険というより、会社を守る保険といった方が正しいのかもしれません。

 

北海道の知床半島沖で観光船が遭難しましたね。海釣りのときは水を検知すると浮き輪が膨らむベルトタイプのライフジャケットを付けていますが、水温が低いと長時間は命が持たないでしょうから、船に乗るならそういうことを考慮すべきだと気付かされました。

すぐに船酔いするタイプなので、堤防など岸からしか釣りませんけどね。

新年度の改正など

明日から新年度になりますね。これから労働保険の年度更新の準備に入っていくので、私たちの業界はあわただしくなっていきます。

 

この4月からパワハラ防止法が始まって、中小企業にもパワハラ対策が義務化されます。騒ぎ立てることでもないけど大騒ぎしている会社もあるかもしれませんので、ポイントを一つ二つ挙げておくと・・・

パワハラは相談があったらちゃんと話を聞いてあげて、同僚や周辺の人にヒアリングして事実関係を確認する必要があります。それで、パワハラに該当するのか否かを判断し、もしもパワハラだったら防止対策や懲戒処分を行います。

パワハラはセクハラと違って、被害者がハラスメントを受けたと感じる=ハラスメントがあった、みたいな感じの取り扱いはしません。それが本当にパワハラに該当するかを客観的に判断する必要があるのです。

また、パワハラは必ずしも上司が部下に行うとは限りません。職務上の優位性を持った人が行うハラスメントですが、入社したばかりの正社員より長期に渡って努めているパートタイマーの方が知識や経験において優位であったりするからです。

 

今年度の労働・社会保険関係の改正で大きいのは65歳未満の在職老齢年金のルールでしょうか。65歳以上と同じ47万円ルールになるので、今まで全額支給停止になってた人も6月から貰えたりしますね。(4月・5月分は6月支給)

そして、年金は繰り上げ・繰り下げのルールも変わるし、世の中が少しずつではあるけど、確実にいろいろと変わっていくのがなんだかワクワクしますね。

 

それから、今年は雇用保険率が年度の途中から上がりますね。10月から変わってくるので、給与計算の際には気を付けておく必要があります。

固定残業の給与計算

世界ではオミクロン株のピークアウト後も感染は下げ止まり再燃するようですから、日本も同じ道を辿ることになるのかもしれません。3月までとされていた雇用調整助成金の特例措置は、5月末まで延長されることになるようですが、助成金に頼らなくてもいい社会が来る日が待ち遠しいですね。

 

残業代は時間数に応じて支払わなければなりませんが、一定時間数の残業代を固定的に支払う「固定残業」や「定額残業」といった制度を導入している事業者も数多くいらっしゃいます。

固定残業代を支給していても、実際の残業時間に基づいて算出された残業代がそれを上回る場合は、差額を別途支給しなければなりません。残業時間をきちんと把握せず、必要な残業代を支払っていないと不払いとなり、後で大きな問題になりかねません。

残業が深夜に及んだり、法定休日の出勤であった場合などは、割増率が増えた分を考慮して計算をする必要がありますし、また、実際の残業時間が固定残業で想定していた時間を下回ったとしても、何らかの手当を追加支給したりすると、残業単価が増えて不払いが発生してしまうこともあり、その点も注意が必要です。

つまり、固定残業を払っているからといって、労働時間を把握する義務からは逃れられないし、残業計算をしなくてよくなるわけではありません。三六協定の限度基準を超えるような時間数の固定残業は裁判所に否定されるリスクもあり、従業員に「どれだけ残業しても給料が増えない」という不満を抱かせる要因にもなるため、さじ加減が重要になってきます。

このように、固定残業はいいこと尽くめではないのですが、人件費の見通しを立てることができたり、従業員に一定の金額を補償することで雇用を安定させやすくできるなど、企業のとっていくつかのメリットがあることも事実です。

固定残業を導入したり、残業計算に関して正しく計算できているか自信がない場合は、社労士事務所に相談されるとよいでしょう。社会保険労務士が使っている給与計算ツールの中には、計算式を設定できて固定残業を上回る支給分を自動計算できるものも存在します。